第3章―結果と考察

第1節―結果

ウェブサイトの特性
まず、最初に対象ウェブサイトの特性についての結果を示す。
管理者の利用サーバーは独自ドメインによるサーバー運営が59サイト、有料レンタルウェブスペースが37サイト、管理者の利用プロバイダのウェブスペースが40サイト、無料ウェブスペースが32サイトという結果となった。また、無料スペースではほとんどの場合、何らかの形で広告バナーが表示された。ただし、この結果はトップページによって判断したものであり、サイトによっては用途に応じ、無料スペースを複合的に利用する場合も見受けられた。
コンテントから見たサイトの特徴は「表現型」が32サイト、「情報型」が48サイト、「交流型」が61サイト、そして、前述の3分類のうち2つ以上の要素を持つと判断された「複合型」が27サイトという結果となった。「交流型」のサイトに限らず9割以上のサイトがメールアドレスを公開し、8割弱が電子掲示板やチャットルームを設置している。
ウェブサイトを利用して収入を得ることができる広告バナーやアフィリエイト・システムは対象サイト中の33サイトが利用しているという結果となった。ただし、無料サービスが自動的に付加する広告は、管理者の意思に基づかないとして調査対象から外したので、広告自体は、結果以上の数のサイトで表示される。内容については、CDやDVDのリリース情報の紹介のコンテンツにおいてオンライン・ショップなどにリンクし「モーニング娘。」の関連商品を購入できるようなサービスを利用しているものが主な結果だ。

自らのウェブサイトに対する著作権の意識
続いて、個人ウェブサイト管理者が自らのウェブサイトに対して有している著作権の意識についての項目の結果を示す。
本調査では、対象サイト中の約半分に当たる82サイトにおいてサイトで自らのコンテンツに対する著作権帰属の表示を行っていた。特に、78サイトにおいてトップページでのcマーク、または、「Copyright」の記述を見ることができた。
「リンクの制限」の記述については対象サイト中の51サイトがリンク先をトップページに限定することを明示し、また、12サイトが事前の報告を要求していた。著作権表示とリンク場所制限明示についてクロス集計を行った結果、リンクの制限がされていないサイトにおいては半分以上で著作権帰属の表示も発見されなかった。この結果に対しカイ2乗検定を行ったところ、統計的に有意な差が認められた(p<0.01)。


他者の著作物の無断使用の状況
対象サイト内の著作物の無断使用の調査結果を示す。無断利用の目的の3項目(k、l、m)から集計した結果、91.0%の153サイトにおいて、何らかの形で著作物を無断で使用しているという結果が出た。
続いて、コンテント種類別の無断使用を示すと、写真著作物に関するものが最も多く、対象サイトの74.4%にあたる125サイトで使用されていた。
例を挙げると、オフィシャルファンショップ「ハロプロショップ」などで販売している公式ブロマイド、雑誌や写真集をスキャンして改変せずにサイトにアップロードしたものだ。また、サイトの背景、リンク用のバナー、掲示板の専用アイコンに、写真を加工したと思われるものが使用されていた。管理者などが作成したデスクトップの壁紙、携帯電話の待ち受け画面などのダウンロードのページを設けているサイトもあった(サイト1、2参考)。
続いて、多く見られたのは映画に関する著作物、たとえば、彼女たちが出演しているテレビ番組、プロモーションビデオといったものだ。特にテレビ番組をキャプチャーしてアップロードした画像ファイルが多く、対象サイトの29.8%にあたる50サイトが何らかの形でこれらの画像を使用していた。使用方法も様々で、キャプチャーしたシーンをを元に管理者がコラムを執筆するというサイトから、プロモーションビデオの全シーンをキャプチャーして展示するようなサイトも存在していた(サイト3参考)。
しかし、動画ファイルの発見は1割強の15サイトにとどまった。さらにアクセスについても何らかの制限がある場合が多く、会員制を採用しパスワードを要求するもの、アクセス期間が限定されているもの、「お礼」を書き込むことで初めてダウンロードが可能になるものといったものだ。
また、本調査で発見されたものは、プロモーションビデオなどの市販品ではなく、CMや出演テレビ番組といった本来無料視聴が可能だったものに限定されていた。
本調査においては音楽著作物の無断利用は、写真著作物や映画の著作物の利用に比べると利用自体が少なかった。CDをMP3に変換したものは発見されず、MIDIファイルについてもJASRACの許諾を受けたものだった。ただし、歌詞については7サイトで許諾を受けていないと思われるものが発見された(サイト4参考)。
本調査においては、著作物の無断利用かどうか判断が難しい事例も発見された。たとえばメンバーの音声をアップロードしているサイトだ。おそらく録音したラジオ番組やテレビ番組から採取したものであろう。また、メンバーの書いた文字をフォントにして頒布しているサイトも見つかった。
続いて、どのような形態の侵害が行われているかを示していく。本調査では、「著作物の複製・頒布に関しての著作権侵害」、「著作物の引用に関しての著作権侵害」、「著作物の同一性保持権に関しての著作権侵害」と3つの分類を行ったが、それぞれ、112サイト、62サイト、107サイトで疑わしい事例が発見された。
特に目立つのが複製・頒布に関しての著作権侵害である。多くのサイトは「Gallery」というようなコンテンツで、管理者が集めたとされる公式写真などを公開している。一部のサイトではダウンロード不可能な設定になっているが、基本的に訪問者はこれらのファイルを自由にダウンロードできる(サイト1)。
また、管理者自らが写真を頒布しなくとも、画像ファイルを自由に交換できる掲示板(「アップローダー掲示板」と一般的に呼ばれている)を設置しているサイトも存在している。画像ファイルや交換のためのCGIのプログラムはトップページと違うサーバーに設置されている場合もあった。
同一性保持権に関する侵害で多く見られた事例はウェブサイトの素材としての加工使用であった。たとえば、ウェブサイトの背景、リンクのためのバナー、そして、掲示板の書き込みを行う際に、個人を特定するための「専用アイコン」といった具合だ(サイト2)。また、管理者がパソコンのデスクトップの「壁紙」や、携帯電話のディスプレイに表示される「待ち受け画面」といったものを趣味で作成し、第三者から投稿されたものを含めて公開するといった複製・頒布の目的も含んだ無断使用の事例も多く見られた。
引用に関しては、テレビ番組のキャプチャー画面を必要以上に利用したりするケースが目立った。管理者は著作権法で認められている「引用」の範囲に当たると考えているのかもしれないが、訪問者が引用されている画像をダウンロードできるようなものは、頒布行為とみなされても仕方ないだろう(サイト3)。
本文で触れられなかった単純集計の詳細な数値は補遺(調査項目と調査結果)に示す。

自らの著作権の主張と他者の著作権侵害の関係
本研究においては自らの帰属する著作権への認識と、他者の著作権の尊重との間に関係があるかどうかを調べた。
調査対象の46.4%のサイト管理者は自らのコンテントに対して保持している著作権の存在を主張しているにもかかわらず、その中の95.1%のサイト内において、「モーニング娘。」関連の著作物を無断利用しているという結果となった。

続いて、著作権帰属表示と著作物の利用目的別の無断利用をクロス集計表にした。
コンテントに対する著作権の帰属表示が行われているサイトの方が帰属表示のないサイトより全体的に無断利用を行う傾向がみられるが、特に展示・頒布目的での無断利用を行っているサイトでは4分の3近くで著作権帰属表示を行っていた。この結果についてはΧ2  検定によっても統計的に有意な差が認められた(p<0.05)。

結果のまとめ
調査課題1:「モーニング娘。」ファンサイトの管理者は自らのコンテントについてどのような著作権意識を有しているのか。
約半分のウェブサイトにおいてウェブサイトの制作者に権利が帰属する旨が記述してあった。また帰属明示サイトとトップページにリンク先を制限するサイトとの間には関係を発見することができた。
調査課題2:「モーニング娘。」ファンサイトにおいて無断利用されている著作物の形式にはどのような特徴があるのか。
4分の3のウェブサイトにおいて写真著作物の無断利用が見られた。一方、音楽に関しての無断利用は歌詞を除くとほとんど発見することができなかった。
調査課題3:「モーニング娘。」ファンサイトにおいてどのような態様の著作権侵害が行われているのか。
複製・頒布を目的とした著作権侵害が最も多く発見された。「公式写真」をアップロードしているケースも多かったが、管理者が公式写真を基にパソコンのデスクトップの「壁紙」や携帯電話の「待ち受け画面」を作成し、頒布しているサイトも多く見られた。
調査課題4:自らのコンテントに対する主張と著作物の無断利用の間に何らかの関連性があるのか。
ウェブサイトの管理者に権利が帰属する記述とコンテンツの無断利用の

第2節―考察