第1章―前提知識の整理

本章では調査を行うにあたっての前提知識を整理する。ウェブサイトと著作権制度についての解説が主となる。
第1節でアイドルファンサイトの特徴と「モーニング娘。」を選択した理由を解説する。
作成者から見たウェブサイトの魅力とは画像や音声も取り込める表現力、インターネットに接続すれば誰でも作成が可能な低い参入障壁、そして、プログラムなどを利用して可能な高いコミュニケーション性にあると考えられる。第2節で「モザイク」、「無料作成支援サービス」の2つのキーワードからそれらのトピックについての考察を行う。
一方で、ウェブサイトが注目されるのは、ネット上では誹謗中傷、わいせつ表現などが事件や訴訟が発生しているからだともいえる。その中の一つが著作権との関係によって生じている問題である。第3節では、最初に著作権制度を概説する。その際に「表現者の権利」と「伝達者の権利」という著作権制度の持つ二面性が明らかとなる。インターネットの登場により情報の流通に大きく影響を与えている現況を総説する。その上で、第4節でウェブサイト管理者に関わる著作権の問題、特に表現との関係について検討する。そして、第5節で本調査の調査課題を提示する。

第1節―モーニング娘とインターネットの親和性

アイドルファンがウェブサイトを必要な理由
本研究では、個人ウェブサイトにおける著作権問題の具体例としてアイドルのファンサイトの調査を行う。その理由を挙げるとすると「アイドル」を由来とした様々なコンテンツが消費されているからだ。雑誌のグラビアで紹介されたり、テレビやラジオ番組に出演したり、写真集、CD、ビデオクリップといったコンテントを発売したりすることもある。
アイドルのファンサイトには「アイドルが好きであるという意思表示」「情報収集」「ファン同士の交流」「ファン層の拡大」という4つの目的があると仮定される。
ファンの行動を考えてみよう。アイドルのファンは「オタク」として社会から敬遠されると可能性があるために周囲に隠している場合もあるが、現実とは離れたインターネット上では自分のそのような趣味を公にすることは比較的抵抗感が少ないだろう。ファンにとって、インターネットの情報伝達の速さはスケジュールなどの情報を収集する際に魅力に違いない。そして、アイドルに関するグッズの収集に関しても、希少性が高いものを完全に収集することがファンとしての優越感ではないだろうか。インターネット環境であれば、自分の収集したグッズの展示・交換・共有が可能になる。さらに、まだ「売り出し」中で知名度が低い場合、ファンがウェブサイトを開設することによってネット上での宣伝活動も行える。
斎藤(2003, p.53)はそのようなファンの活動を「映画俳優、ミュージシャンまたは映画作品自体、音楽自体などの経済的市場規模を拡大するために、不可欠な草の根活動」と評価し、ファンサイトを「本人および所属事務所や映画会社の許諾のある公式ファンサイトではなく、従来のメディア環境下でなされてきた草の根のファン活動同様に、ファンによる個人的な楽しみのために非営利目的で構築・運営されているウェブサイト」(p.54)と定義している。本稿も以下、この定義で「ファンサイト」という用語を用いる。

「モーニング娘。」を選ぶ理由
アイドルのファンサイトの中でも調査対象を「モーニング娘。」とした理由はメディアでの露出とインターネットとの親和性からだ。
簡単にユニットについて説明すると、1997年にテレビ東京「ASAYAN」の企画で5人のオリジナルメンバー結成、シングルCD「モーニングコーヒー」でメジャーデビューを果たした。以後、紅白歌合戦6年連続出場、過去に日本レコード大賞「最優秀新人賞」、「優秀作品賞」受賞し、日本で最も人気のあるアイドル・ユニットのひとつとされている。
メディアの露出についてオンライン書店のアマゾン・ドットコムで「モーニング娘。」を検索したところ(2004年1月5日)、関連する商品について、CD83件、書籍101件、DVD71件、ビデオ53件、TVゲーム4件、ソフトウェア3件の結果が出た。さらに、彼女たちはテレビ・ラジオ番組に出演し、所属事務所はグッズを取り扱うオフィシャルショップ「ハロプロショップ」を展開し、全国各地でコンサートを行うなど、活躍分野は多岐にわたっている。
「モーニング娘。」はインターネット利用者の支持が高いと推定される。日本で最も利用者の多いサーチエンジンのひとつである「Yahoo! Japan」によると2003年で「有名人」の中で最も検索されたキーワードが「モーニング娘。」だとされている("2 Channel most popular keyword", 2003)。巨大掲示板群「2ちゃんねる」においても「モーニング娘。」関連の掲示板は(羊)(狼)(鳩)(蛇)と4種類も設置されている。
また、彼女らは「ASAYAN」というテレビ番組から誕生したユニットなのだが、メジャーデビューの条件として5日間でCDを5万枚販売することを課せられ、また2003年の追加メンバーの選考過程に「国民投票」としてウェブサイトでの投票を導入した。これは視聴者にアイドルの誕生の過程に協力させることで親近感を出させていると言えるだろう(小堀, 2004)。
一方で、「Yahoo! Japan」の検索キーワードランキングの有名人部門において2位が男性アイドルグループSMAPであったが、所属しているジャニーズ事務所関係のアイドルファンサイトにはほとんど著作権の問題は発生していないとされている。その理由はジャニーズアイドルのファン同士の協定が強く、違法サイトに対しては相互リンクを行わないというような措置が取られているからと言われている。また過去に事務所が過去に肖像権をめぐって裁判を起こしていることもファンに抑制を促す要因であると推測される(「ジャニーズ事務所所属タレントの写真がwebに掲載されないのはなぜですか?」, 2003)。
以上の議論から「モーニング娘。」が人気以上にインターネットと深い関係にあることが理解できた。これらの知識を前提に「モーニング娘。」ファンサイトの調査を行っていく。

第2節―インターネット、そしてウェブサイトの魅力

WWWとMosaic
インターネット(The Internet)とは世界中に張りめぐらされたコンピュータのネットワークだ。世界初のコンピュータ・ネットワークとされるARPANETが現在のインターネットの基礎となっている(水野、井手口, 2000, p.90)。そのインターネットは大学や研究機関を中心に発展していった。インターネットでは様々なサービスが利用できるが、電子メールと同様、頻繁に利用されているサービスがWWW(World Wide Web)と言われるものだ。
WWWとは1990年、スイスのCERN(欧州合同原子核研究機関)の技術者たちによって計画的に専門情報を共有する目的で開発されたテキスト、音声、画像、動画なども処理可能な情報検索システムである(インターネットマガジン編集部, 1994, p.49)。
WWWにおいてはHTML(HyperText Markup Language)というマークアップ言語を用い、テキストを一般に「ウェブページ」と呼ばれるページの形で表現する。文章を「タグ」と呼ばれるもので囲い、その区間には特別な表示が行われる。また、利用者の元へ素早く転送できるプロトコルであるHTTP(HyperText Transfer Protocol)と、インターネット上のリソースを統一的に表記できるプロトコルであるURL(Uniform Resource Locator)というシステムも同時に開発された(力武, 1994, p.108)。だが、当時のWWWのインターフェイスは文字の表示のみで、機能も不十分だったため、多くの人々の関心を喚起するものではなかった(Inoue, 2003, p.23)。
WWWがインターネットを代表するアプリケーションとなったきっかけは1993年、当時アメリカ・イリノイ大学の学生だったマーク・アンドーリセン(Marc Andreessen)によって開発されたウェブサイトを閲覧するためのソフトウェア「モザイク」(Mosaic)であるといえよう。モザイクは当時の代表的なHTMLタグに全て対応するだけでなく、画像ファイルをウェブページの中に取り込める<IMG>という特別なタグを解釈することができた。
非常に高い評価を得たモザイクは1993年の秋には一般に普及していたIBM-PCとMacintoshにも移植された(リード, 1997)。インターネットにおけるWWWの情報量はモザイクが開発された1993年の1年間で、約1000倍の急激な増加を記録し、1994年3月の時点でFTPに次ぐ第2位の情報量を達成することとなったのだ(力武, 1994, p.107)。
モザイクの普及により研究者好みで無機質な、文字ばかりのウェブページは、「大衆向きの表現力ゆたかな情報発信メディア」(リード, 1997, p.21)に進化することになったのだ。モザイクの開発以後、「WWWブラウザ」の発展は音声やアニメーションも利用可能な「ネットスケープ・ナビゲータ」、「インターネット・エクスプローラ」と続いていく。

ウェブサイト作成支援サービス
ウェブサイトの発展について日本に焦点を合わせて論じる。初めてウェブサイトが発信されたのは1992年9月30日のことだった(つくばビジネスネットワーク, 1999)。1993年には日本においてインターネットの私的利用・商用利用が解禁され(川本, 2000, p.231)、1994年には当時パソコン通信ホストとして二番手だったニフティがインターネットへの乗り入れを開始した。また、個人向けのインターネット・プロバイダとしてベッコアメとリムネットがインターネットの接続を開始し、ウェブサイトを提供するためのサーバーの貸与サービスを開始した。一般ユーザーの間でもウェブサイトの作成を行う人が増加し始め、個人ウェブサイトの隆盛期を迎えたといえるだろう(三浦, 2003)。
個人サイトの増加に関してはウェブサイト作成を支援する無料サービスの貢献が少なからずあると考えられる。例えば、個人が無料でウェブサイトを設置できる「無料ウェブスペース」と呼ばれるサービスが好例だ。無料サービスは個人のボランティアで提供されている場合もあるが、大半のサービスは設置したページに自動で広告を掲載することで収益を得て、経営を成り立たせている。
たとえば、「無料ウェブスペース」の中でも1994年11月にアメリカで誕生したベンチャー企業が創設したジオシティーズ(Geocities)は多くの利用者の支持を受け、1997年6月時点で、ユーザー数65万人以上、1ヶ月のアクセス数3億5000万ページと、全世界で第5位のアクセスがあるウェブサーバーにまで成長した。1997年9月には、ソフトバンクとGeocities社が合弁会社を設立し、日本版の「ジオシティーズ・ジャパン」のサービスが開始された。現在では約100万人のユーザーを抱える日本最大の無料ウェブサイトサービスを提供している(インプレス, 1997)。
無料ウェブスペースが人気を博したのは、職場や家庭でアカウントを共有しているユーザーがプライベートで利用するためのウェブスペースを求めていたからだと分析される。アメリカにおいては無料メール・アカウントを提供するホットメール(hotmail)も1997年1月から8ヶ月で100万人から600万人と、利用者数を急増させることに成功した。その要因についてホットメールはアカウントを共有している利用者が個人専用のアカウントを欲していたからだと分析している。(小池, 1997, pp.396-397)。同様の理由が無料ウェブスペースにも符合するのではないだろうか。
ウェブサイトにコミュニケーションの要素を与える電子掲示板、チャットルームなどを実現できるプログラムであるCGI(Common Gateway Interface)を貸与する無料サービスも行われ、多くのウェブサイト管理者が利用している。CGIの利用はセキュリティが脆弱になる可能性があるために一般ユーザーの利用を禁止するプロバイダもあり、利用可能だとしてもUNIXの知識が必要となるためにレンタルサービスへの需要が高かった。
このようなサービスによりインターネットに接続する環境があれば特別な知識がなくともウェブで「世界中」に自分の考えを発信することが可能になったのだ。日本国内のサーバーのページ数は1998年からの4年間で約6.4倍にも増加していることが明らかになる(中島、島田, 2002, p.30)。これには個人のウェブサイトの増加も大きく寄与しているのと推測される。誰もが表現活動を世界に向けて行える時代の到来を迎えたのだ。

第3節―インターネットの発展で揺らぐ著作権制度の二面性

著作権制度の概要

著作権制度は、文化・芸術作品を作成に携わった人間にそのコンテント、つまり「著作物」に対する排他的な権利を与えるという制度であり、法律学的には知的財産権法という法制度に分類される。
知的財産権の目的は「他人の創作行為や信用へのフリーライドを防止し、情報という新たな財を形成することにより、創作活動や信用蓄積へのインセンティヴを確保し、ひいては産業の発達や文化の発展を促す」(中山, 1996, p.9)と一般的には解釈されている。
2003年に成立した「知的財産基本法」では知的財産を「人間の創造活動により生み出されたもの」、「商業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの」、「営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報」を3グループに分類している。著作権制度の保護対象は特許と並んで最初のグループに含まれる(矢野, 2003, p.43)。
続いて、著作権法に規定されている権利について概説する。後述する調査では対象が主に日本国内のウェブサイトとなるため、本章の解説は日本の著作権法に基づいたものであるが、1970年に制定された現行の著作権法は国際的な著作権の条約であるベルヌ条約に対応したものである。一般に「著作権」と呼ばれているものは、創作者、つまり著作者に与えられる権利だけでなく、「著作隣接権」という著作物を伝達する者に授けられる権利も含まれる。
著作者に与えられる権利は「著作財産権」と「著作者人格権」の二つに分類される。
前者の著作財産権は、著作者が著作物から得られる経済的利益を保護する権利である。中心となるのは、著作物を印刷したり、コピーをしたりして、著作者に無断で同じものを増殖することを禁止する「複製権」(21条)である。そして、大勢の面前で語ったり、放送装置を使って送信したり、データをネットワーク上で送信をしたりという行為、つまり、著作者に無断で公衆に伝達することを禁じる「口述権」(24条)「上映権」(22条の2)「公衆送信権」(23条1項)などである(岡本, 2003, pp.32-39)。
後者の著作者人格権は、著作者が著作物に対して有する人格的権利を保護する権利である。日本の著作権法で規定されているものは、時期も含めて無断で公表されることを禁ずる「公表権」(18条1項)、変名や無名での発表も含めて本人の望まない名前で公表されることを禁ずる「氏名表示権」(19条1項)、著作者の意に背く形で著作物を改変することを禁ずる「同一性保持権」(20条1項)といったものだ。これらの権利は著作者に一身上のものであり、他人に譲渡することはできない(丹野, 2003, pp.38-39)。
伝達者に授けられる「著作隣接権」は日本法では「放送事業者」「有線放送事業者」「レコード製作者」「実演者」の四者に与えられることとなっている。
著作物が公衆に伝達されて利用されるためには伝達に従事する事業者の労苦と資本投入が不可欠だとし、その成果が無断で利用されてしまうと事業者のインセンティヴを減退させる結果になる。それを防止する意味もあってこれらの事業者に利用行為に対して禁止権ならびに報酬請求権を授与している(田村, 2000, pp.431-432)。
しかし、現実的に著作隣接権は伝達者の「業界保護」の意味が強く、たとえば、出版社の政治的な発言力が強いイギリスでは出版社に日本では認められていない「著作隣接権」が与えられるなど、付与される権利には「政治力」が反映されている(岡本, 2003, pp.58-60)。
最初の近代的な著作権法は1709年にイギリスで制定された「アン法」だとされているが、作品を印刷して頒布することを生業とするギルドが法律の制定に大きく関わっていた(藤本, 1998, p.23)。つまり、著作権制度は印刷ギルドが頒布する権利を「『独占』する理屈をつけるために考えたもの」(尾崎, 2002, p.69)という側面があるといえよう。

著作権に対する意識

1970年代後半の一般に録音機器が普及し始めた時期の世論調査の結果を見ると、7割近い個人は著作権という言葉は知っていると回答したが、日常生活で著作権について意識している個人は1割にも満たなかったという結果となっている(内閣府, 1978)。
日本でインターネットが一般に開放される以前の1980年代中盤以降、日本国内でも電話回線を経由してホストコンピュータに接続したコンピュータに電子データベース検索、電子掲示板や電子メールといったサービスを提供するパソコン通信のサービスが開始した。(柴内, 2003, p.245)。パソコン通信と著作権の問題として、たとえば、電子掲示板上での違法コピーされたソフトウェアの売買といった事件が問題となったが、インターネット時代を迎えて上記で挙げた「販売型」の著作権侵害行為はウェブサイト、時間の経過につれ、ネットオークションサイトに舞台が移っていく。また、プロバイダのウェブサーバーにソフトウェアをアップロードして利用者が違法にダウンロードできるサイトを運営する事例も発生している(久保田, 2002, pp.19-20)。
インターネットの普及初期、1996年に行われた意識調査では対象者の約6割が著作物の利用に対して著作者の許諾が必要だと答えたとされるが(川上他, 1996)、普及するにつれてインターネット利用者全体としての意識は変化していると考えられる。2002年1月の調査では著作権侵害の温床とされるファイル交換ソフトの利用経験者は、インターネットユーザーの3.0%にあたると推計されている(久保田, 2002, p.22)。
2001年にP2P(詳細は後述)ファイル交換ソフトMinMXの悪用で逮捕者が出たにもかかわらず、2003年11月にはより匿名性が高いとされるWinnyを使用して映画の動画ファイルを流通させた疑いで逮捕者を出した(「データ共有ソフトWinny悪用逮捕」, 2003)。
また、本調査対象となる「モーニング娘。」に関しても写真集3冊から取り込んだ画像80枚を無断でアップロードしたウェブサイトの管理者が著作権法違反で2002年9月に逮捕されている(「『モー娘。』写真集無断でHPに」, 2002)。実際にインターネット利用者が著作権を尊重しているかというと、かなり悲観的な見方ができるだろう。

問題となる権利

インターネットとの関係において著作者に認められている権利の中で問題となる場合が多いのは「複製権」と「公衆送信権」だという見解がある(松井, 2002, p.246)。上記の例で言うと、ウェブサイトやオークションサイトでの販売の違反事例は「複製権」の侵害である。また、ウェブサイトにアップロードされた海賊版ソフトウェアの共有の違反事例は「複製権」だけでなく、1997年改正法で創設された「公衆送信権」の問題が絡んでくる。
以前は、公衆に対して著作物を送信する権利は無線放送に関する「放送権」と有線放送に関する「有線送信権」といった具合に伝達の手段で区別されていた。さらに、それらの権利は地上波放送やケーブルテレビのように相手に一斉送信される形態のみ定義されていた。しかし、WWWのような利用者の要求に応じてファイルを送信する方式の場合、いつの時点からが有線送信の範囲になるのかが明確でなかった。パソコンの端末からアクセス可能な状態にするような行為、たとえば、ファイルを作成してサーバーへアップロードするまでの操作自体は、有線送信の範囲に該当しないとも判断されうる。アップロードされ、さらに当該ファイルの内容が送信された時点で初めて有線送信が行われたことが認められるという見解も有力とされていた(尾崎, 2003, p.88)。
1997年改正著作権法では、手段を問わず「公衆送信権」という権利に統合することによって概念を再構成し、WWWのような利用者の求めに応じて情報を送信する「自動公衆送信」(2条1項9号の4)も定義された。前述した法適用の基準の揺れを回避するために自動公衆送信の場合、著作者は「送信可能化権」を行使できることも明確にされた(23条1項)。送信可能化権とは著作物をネットワークに接続されている他の端末からアクセスできるようにできる権利(2条1項9号の5)である。
以上のように情報通信技術の発展により発生した既存の著作権法が想定していなかった問題を対処するため、日本の著作権法では、1997年の改正だけでなく、1999年にはコピー・プロテクションを回避する手段を制限する規定を設ける改正が行われている。

インターネットの登場に困惑する伝達者
インターネット上で発生する著作権問題の特徴として早稲田(2002, p.40)は「デジタル化」、「ネットワーク化」、「匿名性」の3つのキーワードが重要だと見解を示している。
「デジタル化」というキーワードはインターネット上に存在する著作物はすべてデジタル化されたものであり、「複製が安価かつ容易」、「品質の劣化が少ない」、「改変が容易」という特徴を持っているということだ(早稲田, 2002, p.40)。そもそも、「コンピュータの命令の本質要素は加算(add命令)と複製命令(move命令)だから、コンピュータシステム側でよほど特殊な制限が講じられてない限りデジタルデータは『複製できて当たり前』」(尾崎, 2002, p.81)と言っても過言ではないだろう。
「ネットワーク化」というキーワードは、一個人が発信した情報であってもインターネットによって世界中に流通させることが可能になったということを意味する(早稲田, 2002, p.40)。
ただし、光ファイバー回線やADSLのような広帯域回線が普及する以前のインターネットやパソコン通信時代は4800bps、9600bpsというように通信回線の速度が現在と比較して遅く、まだ音楽ソフトをデジタル化する技術も画像をデジタル化するスキャナも普及する以前だったことに加えて当時主流の通信回線であった電話回線は通話時間に比例して料金が加算される従量制だった。ゆえに、ネットワーク上を流通する違法な著作物は最初からデジタル形式で存在し、容量の少ないソフトウェアなどに限定されていたと考えられる。前述の事例の場合も海賊版ソフトウェアの収受の手段が郵送であったことから、当時はネットワーク上でのファイルの送受信は困難であったことが想像できるであろう。
容易にコンテンツを送信することが困難だった環境を劇的に変化させた一つの要因は圧縮技術の進歩だ。たとえば、「mp3」(MPEG Audio Layer-3)と呼ばれる音声データの圧縮の技術はCDと同等の音質を保ちながらファイルの容量を10分の1から12分の1に圧縮させることで、音楽ファイルをネットワーク上で流通可能にさせた(川野他, 2001, p.233)。
「匿名性」という単語はインターネットがその巨大なネットワークであるために匿名性が確保されることだ。たとえ、著作権侵害行為を発見できたとしても、その行為者の特定が困難であり、差止や損害賠償といった被侵害者に対する司法救済措置の実効性が低い(早稲田, 2002, p.40)。

ナップスターの衝撃
以上の3つのキーワードを顕著に関係する事例がアメリカで起きた「Napster事件(A&M Records, Inc v. Napster, Inc)」であり、日本でも類似の事件として「ファイルローグ事件」が注目された。
「ナップスター」(Napster)とは、アメリカのナップスター社の提供するサービスだ。利用者はナップスター社の提供するソフトを利用し、ナップスター社のサーバーに接続する。そして、自分のハードディスクに保存されているmp3ファイルの情報をナップスターの中央サーバーに登録し、他のユーザーと情報を共有し、他人の所有するmp3ファイルを自由にダウンロードできる(岡村, 2003)。このような端末と端末との直接的なやりとりに焦点を当てたサービスはP2P(peer-to-peer)と呼ばれる。ナップスターは、開始直後から圧倒的な支持を得て、最終的に500万人の利用者が存在したという(松井, 2002, p.264)。
RIAA(全米レコード協会)傘下のレコード会社は、ナップスター上で自らが著作権を有する著作物が不法に流通していると危機感を感じた。著作権侵害が行われているとしても一人一人を追及するのは不可能であったため、1999年12月、ナップスター社は利用者の著作権侵害について寄与責任者(contributory infringer)および代位責任者(vicarious infringer)にあたるとして、サービスの仮差止め命令を求める訴えを連邦地裁に対して起こした(松井, 2002, p.265; 岡村, 2003)。
最終的に、地裁の差戻審は2001年3月、著作権を有する著作物をナップスターに通告した上で、その著作物へのアクセスが不能になるまでサービスを停止するようにナップスター社に命じた(松井, 2002, p.265; 岡村, 2003)。ナップスターは著作権侵害ファイルのブロックを実現することができず、ネット上から消え去る運命となった(岡村, 2003)。
複製機器が安価で入手できるようになり流通経路がインターネットに置き換わることで、コンテント伝達者の独占の要素が崩れる可能性が発生している。事業者の独占から得ていた利益が減少することによって、今まで得ていた利益からコンテント製作の費用に回すこと、特に製作者に正当な報酬を払うことが困難になり創作活動のインセンティヴが低下してしまうことにつながる。そして、結果として「ネットで作家を殺す」(インプレス, 1999)に結果に陥ってしまうというのが事業者側の主張だ。

第4節―ウェブサイトと表現の関係

コンテントの流通からコンテントの表現の問題へ
コンテンツのデジタル化とネットワーク化の結果、事業者がコンテンツビジネスにおける「複製」と「流通」を独占できなくなるような時代の到来を迎えることになった。
しかし、一方ではインターネットの発達はプロフェッショナルだけでなく、今までは創作活動をしても発表する場所に恵まれなかった無名の表現者にも機会を与えることになった。その手段の一例として挙げられるウェブサイトにおける表現においてどのような著作権問題が発生しているのかを本項では述べることとする。
著作物の「複製」や「流通」に関する違反については、現在はウェブサイト上よりも、前項で叙述した「ナップスター」よりも匿名性が高いとされるPureP2Pと呼ばれるファイル交換ソフトを利用して傾向が高いと想像される。しかし、過去には音楽ファイルの「mp3」だけでなく、「WAREZ」と言われるコンピュータの違法コピーアプリケーションや、他には「ROM」と言われるゲームソフトのバイナリファイル、またアイドルの写真集といった著作物が「アングラサイト」(undergroundの略)と呼ばれるウェブサイトを媒体として地下で流通していた。また、そういったサイトを網羅するリンクサイトも存在した。
しかし、日本音楽著作権協会(JASRAC)のような事業者団体が独自の検索エンジンを構築し、大規模に違法サイトの摘発を行ったために(インプレス, 1998)、現在ではサイト上でのファイルの大規模な流通は少ないと考えられる。ウェブサイト管理者にとって重要な著作権問題はサイト作成における表現との関係で発生する場合が多いといえるだろう。
ウェブサイト上の表現と著作権の問題はインターネットが普及しはじめた初期から俎上に乗せられていた。『INTERNET magagize』誌上でも1995年10月号で「ネットワーク時代の知的著作権入門―みんなで作ろうホームページ」という記事が掲載されているが、「WWWサーバー管理者の責任」、「ホームページ上の賭博行為はどこの国の法律で取り締まるのか」、「Online模型作品展示会には許諾が必要か」という質問に弁護士が回答している(宮下, 1995, pp.150-153)。この時期にはすでにウェブサイトにおける情報発信が著作権の関係で問題を孕んでいることが認知されつつあると言ってもよいだろう。
現在、ウェブサイトと著作権の問題についてはいくつかの判例が蓄積しているが、まだ不十分といえよう。特にファンサイトについては筆者の知る限り日本では事例が見当たらない。本稿においてはファンサイトにおける著作権問題を検討した斎藤(2003)が挙げている複製と引用の問題を中心にウェブサイトと著作権の問題について検討を行う。

画像などの利用
ウェブサイトの長所は文字だけでなく図面を組み込んでページを作成することができることだ。たとえば、特定のテレビやアイドルを主題としたサイトであれば、それらの写真や画面を用いて紹介をすることも必要であろう。それらの画像を自らのウェブサイト上で、著作者に無断で利用することは問題ないのだろうか。
テレビ番組の場合、テレビ局、すなわち放送事業者は著作権法98条1項によって「その放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、その放送に係る音又は影像を録音し、録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する」とされ、テレビ番組に関する独占的な複製権を有している。そのため、私的使用(30条1項)の場合を除いては、テレビ局の許諾が必要となる(金井, 1997, pp.100-101)。
さらに、テレビ番組の場合は、放送局の有する権利は放送された音および映像についての複製権に過ぎないので、その番組の出演者が有する人格的権利である肖像権、経済的権利であるパブリシティ権も重要となり、また、音声も含むような動画を配信するとなると、流れている楽曲の著作権、演奏者の著作隣接権も問題となる。それらの権利者からの許諾も必要となってくる。しかし、テレビ番組は制作会社などと複雑な権利関係になっていることが多く、また、音楽著作物のように著作権を集中して管理するシステムも存在していない。結果的に、ウェブサイトなどの二次的利用には未対応の場合が多く、コンテンツビジネスの現場でも問題とされている(同, p.101; 佐々木, 2004, p.146)。
また、ウェブサイトにおいては他者が撮影した写真などの一部を改変して背景やバナーなどのサイトのデザイン上の素材として二次利用している場合があるが、著作物の部分抜き取りについても同一性保持権の侵害であり違法とされている。真田広之のブロマイド写真の顔の部分を切り取り、キーホルダーを作成し、販売した事例で東京地裁は同一性保持権の侵害を認めた(豊田, 2003, pp.102-103)。

引用手段の検討
続いて検討するのは引用の問題である。ウェブサイトでは自分の伝えたい情報を紹介するためにインターネットから、もしくは、他のメディアから情報を参照しなければならない場合がある。著作権法上でも32条1項において公表された著作物を「公正な慣行に合致する限り」また、「報道、批評、研究その他引用の目的上正当な目的上正当な範囲内」の二つの要件を満たした上で引用することは認められている。よってこの条件から逸脱しない限り著作権上の問題は発生しないと考えられる(神田, 1997, p.69)。
よって、画像などのコンテンツをウェブページに埋め込んで引用することも問題ないとも考えられるが、デジタル技術の発展・進歩により、引用されたコンテンツが鑑賞に耐え得るものとなりうることは否定できない。要件の基準が明確になっていないことで問題が残るためファンサイトでの利用は不適切だと考えられる(斎藤, 2003, p.62)。
また頻繁に用いられる手段として、「リンク」が挙げられる。多くのウェブサイトでは、「リンクについて」という記述があり、他サイトからのリンクについての要望事項が列挙されている場合が多い。自由にリンクをしても構わない旨を記述している場合もあるが、事前の通告を要求するものや、リンク先についてトップページのみ認めるものや、リンクについて記述がなされていない場合もある。これらのページに対して無断でリンクすることは著作権との関係ではどうなるのだろうか。
実際、ドイツではニュースサイトへのリンクを無断で行っているサイトが著作権侵害だと訴えられたが、最高裁判所はリンクだけでは著作権の侵害に当たらないと判断した(インプレス, 2003)。無断リンクに対して神田(1997)は以下のように述べている。

もともとホームページを開設することは、全世界に向かって自分の作成したファイルや画像等を誰でも閲覧可能な状態に公開(秘匿権を放棄)することを意味します。直接アクセスされようとアクセスの経緯が違うだけですから、いったん自分の意思でファイル等を公開した以上、他人のホームページを経由して閲覧されたからといって、とやかく苦情を言われる筋合いはありません(pp.68-69)。

ただし、著作権法上はHTMLのフレーム構造を利用して自分のサイトのHTMLの中に他人のHTMLを組み込み、自分のウェブサイトのコンテントのように見せるリンクは複製権の侵害(同, p.70)、氏名表示権、そして同一性保持権の侵害を問われる可能性がある(同, p.71)。

著作権帰属表示

斎藤の問題意識にはないが、ウェブサイト上でしばしば見られる「c」マークについて紹介したい。cは「Copyright」(日本語では著作権)の略であり、著作権を主張するためには登録が必要な方式主義の国でも自動的に著作権を保護させるために、万国著作権条約に基づいて規定されたマークである(伊藤, 1997, p.36)。この条約の保護される要件として著作物に「c+第一公表年+氏名」を表示する必要がある(日本写真家ユニオン, 2003, p.147)。
個人ウェブサイトでもcなどによる権利帰属の主張が行われているが、そもそも、日本では著作物が生成された時点で自動的に著作権が発生する「無方式主義」を採用している。2003年10月現在、151の国がベルヌ条約に加入し(WIPO, 2003)、無方式主義に移行している現在ではこの印は法的な効果をあまり持たない。
ウェブサイトにこのような表示をするのは「ファッションか勘違い」(尾崎, 2002, p.71)と考えられるが、ウェブサイトにおいて管理者が自らに著作権が帰属するということを主張するために、またウェブサイトが「何らかの形で作成者の自己表現の場になっている」(山下, 2000)という見解からも重要な意味を持つマークだと考えられる。

第5節―検討課題

以上の背景と問題意識を踏まえて本調査における検討課題を提示する。
ウェブサイト上で表現活動を行っているサイト管理者に著作権が発生するのは、前章で述べた通りである。本研究で分析される視点は、「自らのウェブサイトに対する著作権意識」と「他者の著作物の無断利用」である。
第4節で考察した通りウェブサイトを作成した時点で著作者に著作権が発生するため、cの表示をすることに法的な意味はないのだが、これは著作権が自らの「著作物」を保護したいという意思の現われとも考えることができる。リンクする際の事前の通告や、リンク先の指定などに要求できる法的根拠はないが、これらも著作者が自分の著作物であるウェブサイトの他者の利用をコントロールしたいという意思を示していると考察される。
調査課題1:「モーニング娘。」ファンサイトの管理者は自らのコンテントについてどのような著作権意識を有しているのか。

また、第2節で述べたように、ウェブサイトは文字だけでなく、画像など様々な形式のメディアが利用できたことによって注目を集めるようになったが、音楽関係のファイルについては厳しい監視活動が続けられているが、成果が注目されている。
調査課題2:「モーニング娘。」ファンサイトにおいて無断利用されている著作物の形式にはどのような特徴があるのか。

第3節で述べたインターネットにおける著作権問題の特徴を「デジタル化」「ネットワーク化」「匿名性」というキーワードというキーワードで示した。
「デジタル化」と「ネットワーク化」により、著作物を大量に複製し容易に流通させることが可能な状況を生み出した。前述したようにファンサイトにおける著作物の自分の所有する著作物を他人に公開したい、共有したいという目的で行われる「展示・頒布」、音楽ファイルの大規模な摘発によって、このような利用行為はウェブサイト上では減少していると考えられるが、実態はどのようなものだろうか。
また、ウェブサイトによって多くの人が自分の意見を発信できる時代が到来し、様々な表現・批評活動が行われている。第4節で検討したように、その際に著作物の引用を行う必要もあるが、その要件はまだ確定しているとは言えない。
さらに、著作物の「デジタル化」が進行することで、著作物を容易に改変することが可能になった。「モーニング娘。」のブロマイド写真も販売されており、本調査においても著作物を改変している事例があると考えられる。
調査課題3:「モーニング娘。」ファンサイトにおいてどのような態様の著作権侵害が行われているのか。

第3節で過去に行われた著作権に対する意識調査や、ファイル交換ソフトの利用の実態調査の結果を示したが、これはあくまでも利用者の立場での著作権に対する意識を示したもので、ウェブサイト管理者のような自らもコンテントの作成者である立場にあるユーザーの意識ではない。自らのコンテントについて権利を主張している管理者は他者の著作物をどのように利用しているのだろうか。本調査では自らの著作権意識の高い管理者と低い管理者の間に何らかの違いがあるのかを課題とする。
調査課題4:自らのコンテントに対する主張と著作物の無断利用の間に何らかの関連性があるのか。